首都大学東京 気候学国際研究センター

首都大学東京

ハルタゴールド

基盤研究(S)過去120年間におけるアジアモンスーン変動の解明

過去120年間におけるアジアモンスーン変動の解明
(2014-2018年度 科学研究費補助金 基盤研究(S))

研究概要

・研究の方法

第二次世界大戦後に多くのアジア諸国は植民地からの独立を果たした。それ以前のイギリス植民地時代の“Rainfall of India”、“Daily Rainfall of India”に掲載されている旧英領ビルマ(現ミャンマー)と東ベンガル(現バングラデシュ)、イエズス会が刊行した“Zi-Ka-Wei”掲載の中華民国や日本の満州・関東州時代の中国、日本の明治・大正時代の区内観測所、旧スペインやアメリカ領時代のフィリピン等における紙媒体・画像での日降水量データ等をデジタル化してデータベース化する。

このデータとすでにデジタル化されている独立後のデータを詳細に解析することにより、現在までの過去120年にわたるアジアモンスーン地域の雨の強さやモンスーンに伴う雨季の開始・終了時期、モンスーン活動の長期変動とその地域的特性を解明していく。得られた長期変動について、地上・海上の気象観測や台風、長期再解析による気象データなどから、変化の原因や地球温暖化との関係等についても探っていく。

・期待される成果と意義

地球温暖化をはじめとする気候変動の研究において、過去の観測データは最も重要な一次資料である。本研究ではこれまで世界の気候変動の研究に全く使われていなかったアジア域でのデータをデジタル化して解析することで、アジアモンスーンの長期変化の実態を詳細に明らかにしていく。

モンスーンの変化は、農業を主産業とする社会にも大きな影響があり、現地での洪水対策、極端降雨による水資源の不安定化への対応、降雨変化の農業への影響軽減方策等の立案の基礎資料としても大きな意義がある。

・研究実績

旧英領インド現ミャンマー領、バングラデシュ領地域、フィリピンの20世紀前半期のデータ、および中国の戦中期、日本の関東地方の日降水量等の紙媒体データのデジタル化を進めた。戦時中の陸軍気象部による気象観測の実態を解明し、著作を刊行した。すでに得られたデータを用い、インド東北部チェラプンジにおける100年以上の日雨量データを解析し、インドでのモンスーントラフの弱化時に降雨が多くなることがわかった。
 また西太平洋域の1897~2013年の気象観測データにより、PJパターンと呼ばれる熱帯と中緯度間のテレコネクションの長期変動を解明し、東アジアの夏の気温、東南アジアの雨季の雨量、沖縄や台湾を通過する台風数、日本のコメの収穫量、長江の流量等との相関関係が明瞭な時期と不明瞭な時期とが数十年周期で繰り返し訪れていることを明らかにした。
 日本の関東地方の観測開始以来1925年までの区内観測所降水量観測原簿を収集、コピーを作成した。茨城県についてはデジタル化も完了した。1944-1946年の高層気象台高層気象観測原簿のデジタル化を実施した。

戦後期については、インド北東部メガラヤ高原の降水の季節内変動と日変化の関係やバングラデシュの降雨特性の長期変化を解明したほか、シビアーウェザーの発生状況に関するデータベースを作成した。インドシナ半島の1960年台以降での夏季及び晩秋季の雨季入り・雨季明けの季節変化過程と年々変動を解析し、近年秋の雨季の終了が顕著に遅れていることを解明した。1951~2013年のフィリピンにおける降水量の季節進行パターンを分類し、1990年代以降に雨季入り・雨季明けが遅くなるパターン、明瞭な乾季がないパターン、雨季が短いパターンが頻繁に出現していることを明らかした。東部インドネシアの、1970年代以降における降水極端現象とENSOとの関連等について明らかにした。