医工連携研究センター
学術的背景
新たなメカノバイオロジーの方法論が確立されて行く可能性
東京都立大学
システムデザイン研究科
知能機械システム学域 教授
高齢化やスポーツの興隆等により、身体の変性や損傷は近年、増加の一途をたどっている。たとえば、関節疾患の一種である変形性関節症に関しては国民の30%以上が罹患しているという報告がある。日本人の寿命は、科学技術や医療レベルの向上により、世界トップの座に登りつめたが、その分、身体を変性・損傷する確率が高まるのは当然である。生活の質、いわゆるQOLの維持・向上のためには、変性・損傷組織修復の質的レベルを向上させることが急務とされている。
一方、これまでに組織再生工学領域において、細胞を取り巻くナノ・マイクロスケールの構造的・力学的環境が細胞の増殖・分化に影響を及ぼし、その細胞が生成したマクロスケールにおける組織、器官、個体の構造と特性に多大な影響を及ぼすという結果が得られている。生体が長い時間をかけて研鑽を積み、理想とする姿に近づいて、能力を高めていけるのは、まさに、細胞による周囲環境のセンシングと生体組織構造の再形成の積み重ねによっている。この生命現象はリモデリングと呼ばれ、細胞や細胞接着部のスケールから、ナノ・マイクロレベルでの情報伝達が重要であるとされ、そのメカニズムや特徴について多くの研究者の関心が寄せられてきた。リモデリングに関する知見が組織修復に応用できれば、上記の問題が解決され、QOLの飛躍的向上が得られるであろう。
本研究センターは、工学領域に重心を置くものの、医学領域にも強いパイプを有する医工連携研究センターを設置する。まずは我々の得意分野であるナノ工学における最先端の加工技術や材料生成技術を総動員し、メカノバイオロジーの技術革新をはかるとともに、新たな研究領域を創成する。そして、それらの検討で得られた成果をもとに、生体分子のセンシングデバイスや細胞の分化制御デバイス等の開発、および器官・組織疾患に対するバイオマテリアルの創成等を行って、医療応用に結びつく検討を行っていく。